余り気の毒だから
「行く事は行くがぢき帰る。
来年の夏休には屹度(きっと)帰る」と慰めてやつた。
夫(それ)でも妙な顔をして居るから
「何を見やげに買つて来てやらう、何が欲しい」と聞いて見たら
「越後の笹飴が食べたい」と云つた。
越後の笹飴なんて聞いた事もない。第一方角が違ふ。
「おれの行く田舎には笹飴はなささうだ」と云つて聞かしたら
「そんなら、どつちの見当です」と聞き返した。
『坊っちゃん』を読み返す度に、新しい発見がある。
「おれの行く田舎には笹飴はなささうだ」という答えには、
坊っちゃんの、どれほどの優しさが込められていることか。
幼い頃に「アルプスの少女ハイジ」のアニメを見て、
やや大きくなってからは、『坊っちゃん』を読んで育った私は、
「白パン・黒パン」と「越後の笹飴」には、過剰反応してしまう。
レストランで黒っぽいパンが出てきた時には、
必ずと言っていいほど、ハイジについて熱弁を奮い出し、
周りを「ドン引き」させてしまうし、
新潟産の笹飴を見かけた時には、ほぼ100%の確率で、
「これ清(きよ)のやつだ! これ清のやつだ!」を繰り返すのである。
# by nazohiko | 2007-03-02 12:12 | 論考・批評 |