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ぬばたまのネロの饗宴

シェンキェーヴィチの『クオ・ワディス』を、
まだ読み終えてはいないのだが、
岩波文庫本で上・中・下に分かれているうちの、
上の巻まで目を通したところで、
これより先へ読み進めたいという意欲が、
いまひとつ湧かなくなってしまった。

書物との出会いは、
相撲の「立ち合い」に似ていて、
向き合って手をつくことを繰り返したり、
時には「待った!」をかけたりしているうちに、
あちらとこちらの呼吸が合う瞬間が、
やってくるものだ。

この大河小説を、再び手に取りたくなる時分が来るまで、
しばらく書架で休んでもらうことにして、
ここらへんで、いつもの一言居士を務めておくことにしよう。

『クオ・ワディス』の序盤部分で、最も出色に思われたのは、
若き武人ウィキニウス、異民族の少女リギア、
そして元老院議員ペトロニウスなどなど、
物語の主役たちが勢揃いする、ネロ皇帝の大饗宴の場である。

ペトロニウスは実在の人物であり、
この場面は、明らかに、
彼自身が書いた散文長篇『サテュリコン』の中から、
「トリマルキオンの饗宴」の章を、下敷きにしている。
いわば、彼に捧げられたオマージュでもあるのだ。

「トリマルキオンの饗宴」の有様は、
放浪学生エンコルピオスの一人称の語りによって報告され、
その明晰でシニカルな観察ぶりに魅力がある。
「趣味の審判者」と謳われ、洗練と韜晦で一生を過ごした
宮廷人ペトロニウスの面目躍如と言えるが、
『クオ・ワディス』におけるネロの饗宴では、
突然宮殿に連れてこられて、
右も左も分からない状態のリギアが、この場面の核となる。
彼女の挙動や情動は、一貫して三人称で描写され、
私たちは、リギアの視線や感情起伏を媒介にして、
宴会場を去来する人々を眺めることになる。
そんな遠近法的な筆致が、こちらの魅力である。

宴席でリギアを取り巻く状況にも、遠近法が効いており、
遥かな玉座から、ネロが冷たい視線を送ってくるかと思えば、
リギアの護身役として、隣に座っていたはずのウィキニウスが、
酒に酔った勢いに任せて、彼女に猛烈な求愛を始めたりと、
「カメラワーク」の妙は比類がない。

そして何よりも、ここで描かれる徹夜の酒宴は、
とにかく底抜けに面白くて、馬鹿馬鹿しくて、豪奢なのである。

惜しむらくは、
宴会の最初から最後まで、ネロの傍らに座して、
弁舌の才をほしいままにしていたはずのペトロニウスに、
たった1度しか「カメラ」が向けられないことだ。
リギアの従者である巨人ウルススが乱入してきて、
ウィキニウスの求愛に困惑するリギアを抱え上げ、
そのまま連れ去ってしまうという椿事が起こった時に、
ペトロニウスがどんな表情を浮かべ、どんなことを言ったか、
ぜひとも物語ってほしかったのだが。
いや、そのしばらく前にネロは退席しているから、
ペトロニウスも、ネロに随って宴席を後にしていたのかもしれない。# by nazohiko | 2006-10-16 00:51
by nazohiko | 2006-10-16 00:51 | ☆旧ブログより論考・批評等
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