サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」には、読んで字の如く、パイプオルガンが登場するのだけれど、1台のピアノを2人で弾く、所謂「4手ピアノ」も用いられる。これも、交響曲の演奏には通常参加しない楽器だ。
この交響曲の中で、私が最も好きなのは、第2楽章後半(概して、快速楽章に相当する)の冒頭で、4手ピアノ(1台のピアノを2人で弾く)と弦楽器が合奏する、奇跡のような8小節である。
http://www.youtube.com/watch?v=V_2FKcorqqE
(この演奏では、0:33から1:13まで。)
電子楽器風だとか、SF的だとか、評されることが多い箇所だが、言い得て妙な表現だと思う。オルガンという、比較的メカニカルに響く楽器が、豪壮に和音を鳴らした直後に、この8小節がやってくるせいもあって、巨大な宇宙船が飛び去った後に、光彩を帯びたガスがたゆたっているような情景を、思い描かずにいられない。
4手ピアノの出てくる箇所は、全曲を通じて数えるほどしかない。しかし、この8小節におけるピアノの存在感は、正に「一声千両」なのだ。