『坊っちゃん』に出てくる「山嵐」は、「逞しい毬栗坊主で、叡山の悪僧と云ふべき面構である」ので、背中に針毛を生やしたヤマアラシ(山嵐・豪猪)に因んで、「山嵐」と渾名されたのだろう。
ヤマアラシは、ハリネズミ(針鼠)の別名だと思っていたら、なんと、ヤマアラシはネズミ(鼠)目で、ハリネズミはモグラ(土竜)目なのだそうだ。 そして、同じように針毛を生やした「ハリモグラ」という動物もあって、それは、カモノハシ(鴨嘴)目に属するというから、愉快である。
ヤマアラシは「豪猪」とも書かれるのに、猪ではなく鼠で、ハリネズミは「鼠」の字が入っているのに、鼠ではなく土竜で、ハリモグラは「土竜」の字が入っているのに、土竜ではなく鴨嘴というわけだ。
哲学者ショーペンハウアーが唱えて、後に心理学でも用いられるようになった、「ヤマアラシのジレンマ」、或いは「ハリネズミのジレンマ」という比喩があるが、元のドイツ語では、「Das Stachelschwein-Dilemma」というらしいから、「ヤマアラシ」と訳すのが、正しいことになる。これを「ハリモグラのジレンマ」と訳した人は、まさかあるまい。