君釣りに行きませんかと赤シャツがおれに聞いた。
赤シャツは気味の悪るい様に優しい声を出す男である。
丸で男だか女だか分りやしない。男なら男らしい声を出すもんだ。
ことに大学卒業生ぢやないか。
物理学校でさへおれ位な声が出るのに、文学士がこれぢや見つともない。
「卒業生」というのは、奇妙な言葉だと思っているのだが、夏目漱石も平気で使っていたことに気付いた。
学校を出れば、もう「生」(学生)ではないのだから、「卒業生」という表現は、成り立たないのではないか。「生」(学生)の段階を終えて、「士」(学士)に昇格した者が、「卒業者」や「卒業士」のように呼ばれるなら、話は分かるけれども。