さむくって
たまらないので
もうすこし
あったかくして
ください風を 岡部杏里
この歌は「散文からちょっと離陸している」ところが魅力だろう。
細かい点に着眼すれば、「あったかくして/ください風を」という下句の「句跨がり」と「倒置」が、それぞれ効いている。
結句という韻律的に盛り上がるポイントに「ください」が来ることで、文法的には依頼を表すだけの「ください」が、
文字通りの動詞(give me!!)としても立ち上がってくる。また、「あったかくしてください」という言葉を通り抜けた後に「風を」が置かれることで、この「風」には、希求される対象(未実現のもの)としての「あったかさ」がおのずからまとわりつき、読む者の心を僅かながらも「さむさ」から救い出す。