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L'ho perduta, me meschina!

 モーツァルトの歌劇「フィガロの結婚」は全24曲から構成されるが、そのほぼ全てが長調を主体とする。苦しみや不安や焦燥までも長調によって描き出してしまう、巨匠の腕前には感嘆する他なく、またそうした瞬間に、あくまで長調音楽の範囲内で出現させられる「陰影」の印象深さには、下手な短調音楽が束になっても敵わないと思うが、それはさておき、第4幕の冒頭にたった1つだけヘ短調の曲を置き、それまで出番の少なかった少女バルバリーナに歌わせるという趣向と、そしてその小さなカヴァティーナ"L'ho perduta, me meschina!"を、私はこよなく愛する。

 僅か30小節余りで途切れてしまう上に、歌っている内容も「預かったピンをなくしてしまった……どうしよう?」というに過ぎないため、オペラ史上屈指の佳曲でありながら、従来ソプラノ歌手のアリア集に収められたり、独唱会の演目に加わったりすることはめったになかったと言える(この点は、オテロの凱旋宣言"Esultate!"と共通している)。パトリシア・プティボンが「恋人たち」と題して、ハイドンやグルックやモーツァルトのアリアを取り集めたCDに入っているのが、私の知る数少ない例の1つである。

 これに対して、Youtubeにはバルバリーナのあのヘ短調が、意外なほどたくさん転がっているではないか! 今晩その事に気付かされてから、昂奮に任せて次から次へと、数多のバルバリーナたちに"L'ho perduta!"の嘆声を上げさせてみたが、その作業はまだまだ終わりそうにない。

http://www.youtube.com/results?search_query=L%27ho+perduta+mozart&oq=L%27ho+perduta+mozart&gs_l=youtube.3...59109.60703.0.61281.7.6.0.1.1.0.125.609.3j3.6.0...0.0...1ac.1._vi-xsls5Iw

 私がこのカヴァティーナについて求める歌唱のあり方は、独立の1曲として栄養感たっぷりに歌い上げることでもなく、プリマ・ドンナの十八番として円熟味いっぱいに喉を効かせることでもなく、例えばベーム指揮の1968年録音盤におけるバルバラ・フォーゲルの表現が、今のところ理想に最も近い(というか、それが私が最初に出会ったバルバリーナなのだけれども)。「フィガロの結婚」の初演でバルバリーナ役を務めたアンナ・ゴットリープが、当時12歳(!)であったという事実が、もっと現代のバルバリーナたちに深く意識されるべきではないか。因みにゴットリープはその5年後、17歳で「魔笛」のパミーナ役を初演することになる。

 フォーゲルのすばらしい歌声はYoutubeに出ていないようなので、今すぐ皆様にお聴かせできないのが残念だが、代わりに次善の歌唱として、同じベームの指揮により、それぞれマリア・ヴェヌーティとジャネット・ペリーがバルバリーナを歌う映像を、以下にご紹介しておくことにしよう。どちらの映像でも、指揮・歌唱共に1968年録音盤に比べて芝居がかっているのが玉に傷である。

マリア・ヴェヌーティ
http://www.youtube.com/watch?v=h_e58H7xmII

ジャネット・ペリー(46:28より)
http://www.youtube.com/watch?v=H9CDJoygw4w

 このカヴァティーナを管楽で演奏している映像も、Youtubeの中に見つけた。著名なアリアやアンサンブルに事欠かない「フィガロの結婚」の中で、わざわざこの小曲が管楽にアレンジされるのも、なかなか珍しいことではあるまいか。

Trio Eccentrico(フルート・クラリネット・ファゴット合奏版)
http://www.youtube.com/watch?v=S2FuctUfRqA
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by nazohiko | 2013-03-03 23:05 | ◆音楽を聴く
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