by 謎彦 by なぞひこ
by Nazohiko


会いたかった~!(2)

 宮内卿がどのような容貌であったか、具体的なイメージが湧いたことがないし、日常会話の声音や和歌を吟じた際の抑揚についても同様なのだが、その作品を黙読する時に聞こえてくるのは、透明感のあるソプラノであり、そのテンポは速くも遅くもない。塚本邦雄は『新古今和歌集』春上の構成を優れた楽曲に喩え、第4首目として彼女の歌「かきくらしなほふる里の雪の内に跡こそ見えね春は来にけり」が現れる所を、そこで「宮内卿のソプラノが響く」と言い表した。私がこの評言を初めて目にしたのは大学1年生の冬だったが、一読した時に覚えた鮮烈な共感は、今なお揺るがない。

 私の場合はいつの頃からか、モーツァルトの絶筆「レクイエム」を聴く度に、ニ短調で始まった第1楽章「入祭唱」が変ロ長調に転じて、ソプラノ独唱が"Te decet hymnus, Deus in Sion..."と歌い出す所で、上述の『新古今和歌集』春上・第4首を想起するようになった。但しそうとは言っても、宮内卿の歌に先行する第1首(摂政太政大臣=藤原良経)・第2首(太上天皇=後鳥羽上皇)・第3首(式子内親王)という流れに、「レクイエム」冒頭の重苦しい歩みを連想するわけではないけれども。また、ソプラノ独唱による"Te decet hymnus..."の一節は、私には「速くも遅くもない」という気分を与えるような音楽となっているが、楽譜に指定されたテンポはアダージオであり、物理的には楽章全体がこの「遅さ」で終始一貫している。

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by nazohiko | 2013-01-19 22:39 | ◆詩歌を読む
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