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会いたかった~!

 「後鳥羽院宮内卿」と呼ぼうと「若草の宮内卿」と呼ぼうと、いずれも本名ではないから重大な違いはないのだが、早世したと伝えられる彼女に「家集」はない。彼女の和歌や、彼女に関する資料をまとめた書物が編まれることも(少なくとも、そうした書物が世に周知された例は)、長きにわたって皆無だった。

 神尾暢子氏による『纂修後鳥羽院宮内卿歌集稿』(中央図書出版社〈王朝叢書〉、1970)を先日入手できたことは、宮内卿を「タイムマシンに乗れるなら、ぜひ会ってみたい歌人」の筆頭とする私にとって、渇きを癒されるような喜びである。彼女の歌として伝世するものを計363首、原則として成立年代順に配列してあり、本文は平仮名表記に統一した上で、典拠となった文献(同じ歌が複数の文献に現れる場合も少なくない)と、そこに用いられた表記を附注として示す。歌合に出品された歌については、番えられた歌と判詞も記し留める。

 実際の所は、「正治二年第二度百首(100首)」「老若五十首歌合(50首)」「仙洞五十首(50首)」「千五百番歌合(100首)」「水無瀬恋十五首歌合(15首)」という有名出典を持つ歌だけで、既に315首(但し重複を含めて)に達してしまうのだが、以上の百首歌・五十首歌が1冊に纏められているのは便利であるし、歌合の中から宮内卿の作品だけを抜き出してあるのも有難い。そして何よりも嬉しいのは、これまで私の知らなかった幾つもの歌や、それらを収めた様々な文献に、神尾氏のおかげで邂逅できたことだ。

 歌を年代順に配列してあることは、宮内卿の歌風の変遷(確認される活躍期間が、僅か4年であるとはいえ)について考えるために役立つし、その作品を収めた同時代や後世の文献(勅撰和歌集など)を丁寧に列挙してあることは、どの歌がどのような人々に評価されたかを観察するのに役立つ。収録歌の内には、『古今著聞集』や『兼載雑談』に見られる各1首のように、

みやこにも ありけるものを さらしなや はるかにききし おばすてのやま
古今著聞集 宮内卿は甥にてありける人に名たちし也。をとこかれがれになりにけるとき、よみ侍りける/都にも有けるものをさらしなやはるかにきゝしをばすての山(巻第八・好色第十一)

さればとて こけのしたにも いそがれず なきなをうづむ ならひなければ
兼載雑談 此の歌は、宮内卿、後鳥羽院のえいりよにかなひたりし頃、定家に密通の名立ちて、勅にそむく。局に引き籠りてよみたりし歌なり。是をえいらんありて、感じ給ひてやがて勅免ありしとなり/さればとて苔の下にも急がれずなき名を埋む習ひなければ

当該歌の誕生に関わるエピソードまで含めて、如何にも史実らしくないものも含まれるのだが、それらとて「宮内卿伝説」の形成や伝承について我々に情報をくれる、捨て難い資料であると言えよう。
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by nazohiko | 2013-01-19 12:07 | ◆詩歌を読む
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