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実朝の春

源実朝の『金塊和歌集』を、初めて通読したのは、
古書店で求めた、今にも崩れそうな岩波文庫版だった。

その文庫本が、復刊されているのを見つけたので、
買い直して、久しぶりに読み返してみた。

とりあえず「春部」まで目を通して、気付いたこと。

実朝の和歌世界において、春という季節は、
あからさまに過ぎるほどに、
「然るべき文化」とでも呼ぶべきものの比喩となっている。
"culture"の訳語へと、重心を移してしまった、
近代的な意味での「文化」というよりも、
「王者や聖人が、文を以て民を教化する」という、
「文化」のもともとの字義に、幾らか近い意味において。

そして、「然るべき文化」とは、
実朝自身が代表する、鎌倉武士の文化ではなく、
天皇が代表する、古き王朝文化に他ならなかった。
なおかつ、それは決して過去のものではなく、
京都の宮廷や吉野の山奥に、今なお息づいているものであり、
未来永劫にわたって、決して揺らいだり色褪せたりしないことを、
実朝は、心から信じ込んでいた。
或いは、無理矢理にでも信じ込もうとしていた。

「然るべき文化」から、地理的にも社会的にも、
遠く離れて暮らすことを、余儀なくされていた彼は、
まるで孤独に耐えかねたかのように、
都の方角からやってくる春を渇望する歌や、宮廷や吉野の春を想像する歌を、
繰り返し、繰り返し、書き記すのである。

# by nazohiko | 2007-05-12 00:12
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by nazohiko | 2007-05-12 00:12 | ☆旧ブログより論考・批評等
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