by 謎彦 by なぞひこ
by Nazohiko
最新の記事
4月1日
at 2017-04-01 21:12
君よ知るや「カニのタルト」
at 2017-03-31 15:18
君よ知るや汝窯の青磁水仙盆
at 2017-03-09 23:15
君よ知るや台湾紅茶と台湾ウィ..
at 2017-03-08 21:30
当たり前ポエムと言えば……。
at 2017-03-08 00:32
カテゴリ
全体
◆小説を読む
◆小説を読む(坊っちゃん)
◆論考を読む
◆詩歌を読む
◆漫画を読む
◆動画を視る
◆音楽を聴く
◆展覧を観る
◇詩歌を作る
◇意見を書く
◇感想を綴る
◇見聞を誌す
☆旧ブログより論考・批評等
☆旧ブログより随想・雑記等
☆旧ブログより韻文・訳詩等
☆旧ブログより歳時の話題
★ご挨拶
以前の記事
2017年 04月
2017年 03月
2016年 11月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 03月
2015年 07月
2015年 05月
2015年 02月
2014年 04月
2013年 07月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 08月
2007年 06月
2007年 05月
2007年 03月
2007年 02月
2007年 01月
2006年 12月
2006年 11月
2006年 10月
2006年 09月
2006年 08月
2006年 07月
2006年 06月
2006年 05月
2006年 04月
2006年 03月
2003年 08月
2003年 07月
2001年 04月
検索
その他のジャンル


天書(A Book from the Sky)

徐冰(Xu Bing、シュー・ビン)は、
1955年に中国の重慶で生まれた美術家である。
現在はニューヨークで活動している。

彼の代表作の一つと言えるのが、
1988年に発表が開始された「天書」シリーズだ。
ここに写真を掲げたのは、1989年の作品で、
「析世鑑世紀末巻:天書」と題されている。
最後の写真は、印刷に用いられた版木である。


【旧ブログには画像あり】


伝統的な漢籍が、丁寧に模造されているようでいて、
明朝体で木版印刷された、如何にも漢字に見える図形は、
どれ一つとして辞書に載っていない。
つまり、それらに「文字」としての機能を期待するならば、
意味も発音も持たない、無機能な「文字」たちなのだ。
徐冰は、そうした「文字」を4000あまり創案して、
適度に反復使用しながら、印面を埋めていった。

【旧ブログには画像あり】

これら「天書(天から来た文字、という意味でもある)」を、
私たちが「漢字に見えるもの」として認識してしまう理由は、
言うまでもなく、
漢字に使われる種々のパーツを、
ヘン・ツクリ・カンムリ等、
漢字の空間構成法に則って配列することを、
構図の基本としているからである。

既存の漢字から、パーツを借用して作られた図形であるから、
字義や発音を、力ずくで読み出してしまうことも不可能ではないが、
そこまで粘着的な鑑賞法を、作者が期待していたのかどうか、
私の知るところではない。
但し、扉に大きく刷られた3つの「文字」が、
「析世鑑」という書名を表すらしいことに限っては、
神秘のヴェールがめくれ上がってしまうのを、
作者は、さすがに禁じ得なかったようだ。

【旧ブログには画像あり】

漢字のように見えながら、漢字辞典に載っていない図形を、
4000あまりにわたって設計するという作業は、
「新しい漢字を作り出すこと」よりも、
「文字に見えない図形を描くこと」よりも、
遥かに難しい営為であるに違いない。

描かれた図形が、
「漢字に見えるもの」として認知されるために、
作者の技量は、積極的な条件と消極的な条件を、
共に満たさなくてはならない。

積極的な条件というのは、
漢字の造形に用いられてきた筆法や空間構成法を、
作者が、完璧にマスターする必要があることである。
消極的な条件というのは、
いわば「漢字の偽作者」を務めるのだから、
徐冰という美術家の個性が、
その図形から、むんむんと発露してしまうようでは、
失敗となってしまうことである。

そして、更に厄介なことに、
人類がこれまでに産み出した漢字の総数は、
中国で作られたものだけに限っても、40000を超えるのだ。
図書館に並んでいる『大漢和辞典』を、
どの巻でもよいから手に取って、頁を繰ってみてほしい。
「こんなにも奇妙なヴィジュアルの漢字が存在したのか!」
「このパーツとあのパーツに、こんな組み合わせ方があったのか!」
等と驚きながら、あなたは半時間くらい過ごしてしまうだろう。

如何にも漢字らしく見えながら、
なおかつ、漢字辞典に載らない図形を発明したつもりでも、
その大抵は、とっくの昔に「漢字」として登録されているのである。
釈迦如来の掌の上をさまよう孫悟空のように、
徐冰は、数え切れないほどの得意と失意を繰り返しながら、
やっとのことで、4000あまりの図形を確保したのだろうと推察される。
ヴァラエティに富む発想力と、
個性の消去を両立させなくてはならないから、いよいよ骨折りなのだ。

どうかゆっくりと鑑賞していただきたい。

※徐冰オフィシャルサイト http://www.xubing.com/

# by nazohiko | 2007-01-16 00:45
[PR]
by nazohiko | 2007-01-16 00:45 | ☆旧ブログより論考・批評等
<< なめとんか 耕野裕子『CLEAR』の復刊 >>