by 謎彦 by なぞひこ
by Nazohiko


和服の下に赤シャツを?

『坊っちゃん』に出てくる赤シャツ教頭は、
フランネル製のシャツを着ていることになっている。

もし彼が、背広を着込んで出勤しているとすれば、
カジュアル向けであるフランネルのシャツと
合わせるのは、おかしいと言えるし、
そうではなくて、和服の下に赤シャツを着ているのだという
推定をする人もあるそうだが、
だとすれば、いよいよ珍妙な出で立ちである。

それから、あまり有名な場面ではないけれども、
彼が身に付けている金鎖(懐中時計の鎖だろう)を、
温泉からの帰りに、坊っちゃんが贋物であると見破る。
「社会の上流」らしく振る舞いたくて、背伸びをしてみるものの、
中途半端な真似事に甘んじたり、
トンチンカンに陥ったりするほかない人物として、
赤シャツ教頭は描かれているようだ。

彼に、お金がないわけではない。
同じ「学士様」の漱石は、松山中学校の平教員だった時点で、
既に校長を上回る高給をもらっていたのだから。
彼に足りないのは、セレブ生活のための生活教養と、
そして、自分への投資を惜しまない度胸だった。
金無垢の鎖でも、買おうと思えば買えたはずだが、
貴金属商の門をくぐる度に、尻込みしてしまい、
だらだらと贋物を使い続けているといったところだろう。

私が面白く思うのは、
赤シャツの服装に対する違和感や、金鎖が贋物であることが、
いずれも坊っちゃん自身の発見として、読者に報告されることである。
ファッションや装飾品には、無頓着そうな坊っちゃんなのだが。
このことは、坊っちゃんの出身家庭が、
決して裕福ではなかったとはいえ、
それなりの階層に位置していたことを、意味するとも言えようし、
あるいは、東京の文明文化の中で育った坊っちゃんと、
大学時代の数年間だけ東京にいたのであろう赤シャツの違いが、
こうした点に現れていると言えるのかもしれない。

# by nazohiko | 2006-11-23 14:57 | 論考・批評 |
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by nazohiko | 2006-11-23 14:57 | ◆小説を読む(坊っちゃん)
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