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「ぬばたまのネロ」小考

先の日記「ぬばたまのネロの饗宴」は、
塚本邦雄が好んで使った
「ぬばたまのネロ」という枕詞表現を借りて、
題名としたものである。

仮に、最晩年の歌集『約翰傳偽書』から引いてみれば、

  気紛れに愛して忘るぬばたまのネロ皇帝と雨月の花火

というが如し。

アヤメ科の多年草ヒオウギの
丸くて黒い果実を原義とし、
伝統的に「黒」「夜」「夕」「宵」「髪」などに係る
枕詞として用いられてきた「ぬばたま」を、
第5代ローマ皇帝の名に接続したわけで、
如何にも塚本風の力技でありながら、
なるほど、ネロ皇帝にまつわる諸々のイメージと調和して、
存分の説得力を発揮するのである。

30歳にして玉座を追われ、自死に追い込まれたネロにとって、
塚本が捧げた「ぬばたま」の枕詞こそは、
最もふさわしい帝冠であると言えようか。

後から気付いたことだが、
今もローマを首都として戴くイタリアの言葉では、
「黒い」という形容詞を"nero"と言う。
超絶的な博覧強記を誇った塚本のことであるから、
このあたりまで計算した上で、
「ぬばたまのネロ」を着想したのかもしれない。
そうであれば、
「ぬばたま」は「黒」に係るという古来の約束を、
塚本は涼しい微笑を浮かべながら、
ちゃっかりと遵守していることになる。

尤も、ネロ皇帝が話していた頃のイタリア言葉、
即ちラテン語では、
「黒い」を"nero"と言わずに"niger"と言う。
そこまで正確を期して、
例えば「逃げるネロ」などと洒落込んでみては、
あいにく、いまひとつ華に欠けるのだが。# by nazohiko | 2006-10-16 18:35
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by nazohiko | 2006-10-16 18:35 | ☆旧ブログより論考・批評等
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