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ピアノ・ソナタ K.330

短歌仲間の河野美砂子さんが、11月7日に「モーツァルトに会いたい」と題するピアノ演奏会を開かれる。曲目への思い入れや、練習時の所感を綴っておられるブログが面白くてたまらず、今日はピアノ・ソナタ K.330や、「私はランドール」による12の変奏曲 K.354の入ったCDを、図書館で手当たり次第に借りてきた。

K.330は、現在ではモーツァルト27歳の作品とされるハ長調のソナタ。音域は狭く、音の重なり具合も薄く、技巧的な運指を誇らず、転調も目立たないし、律動の変化にも富まない。第1楽章と第3楽章(終曲)を統べるコロラトゥーラ風の旋律も、響きの構造体から浮き足立つことがないので、少しもうるさく感じない。

音として大脳に届けられる刺激は、つまるところ最小限度に近いと言ってよいのに、この楽曲によって喚起される愉悦の、何と豊かで、瑞々しいことだろう。

似たような印象を持ったモーツァルト作品として、ディヴェルティメント K.136(ニ長調)と、交響曲第29番 K.201(イ長調)があるが、これら2曲には、まだ「聴き手を喜ばせよう」という欲望の残滓が見受けられる。それに対して、K.330のピアノ・ソナタを聴く心持は、モーツァルト自身のためだけに奏でられる音楽を、庭先にしゃがんで盗み聴きしているかのようだ。その意味で、私はこの曲を、モーツァルト作品の内でも最高の境地を示す作品と呼んでよい。

逆に言えば、このピアノ・ソナタは、私たちに微笑みかけてくることがないのだ。私たちのことなど知らぬ顔で、透明な結晶がひとりでに昇華してゆくように鳴りわたる、そんな冷たくてツレナイ楽曲というイメージもまた否めないのである。# by nazohiko | 2006-10-04 00:31
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by nazohiko | 2006-10-04 00:31 | ☆旧ブログより論考・批評等
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