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機内でワーグナー(5)

このように「さすらひのオランダ人」という歌劇や、その登場人物たちを再考するよう、私を後押ししてくれたのは、ひとつには「一個の戯曲として読み直してみよう」という私自身の意欲であり、ひとつには「黒きマストの船」ならぬボーイング767で巡航中であるという高揚感であった。しかし、岩波文庫版の訳者が「オランダ人」の台詞(歌詞)に与えた、細身でありつつ堂々とした気韻なくしては、私がこの人物の二面性に気付くことは難しかったかもしれない。

更には、「さすらひのオランダ人」という訳題である。ドイツ語の原題"Der Fliegende Hollander "は、日本では「さまよえるオランダ人」と訳される場合が多い。訳者高木の解説によれば、「しばらく動詞、文語、漢語をさけて」というだけの理由で、「さすらひのオランダ人」を採用したのだというが、皮肉にも訳者の意に反して、私はこの訳題や台詞(歌詞)の文体に触発されて、「オランダ人の船長こそ主役である」と解釈するようになった次第である。「さまよえる」という修飾語には、受動的で感傷的の語感ばかりが伴うが、「さすらひの」という言葉からは、能動的で信念的な雰囲気が、後光のように射すのである。# by nazohiko | 2006-09-15 00:36
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by nazohiko | 2006-09-15 00:36 | ☆旧ブログより論考・批評等
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