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機内でワーグナー(2)

ここまで乗ってきた飛行機の中で、岩波文庫の『さすらひのオランダ人/タンホイザア』(高木卓 訳)を読んだ。ワーグナー自身の執筆による、歌劇の脚本である。幾度か観たことのあるオペラだけれども、旧仮名遣いの文字面に興味をそそられて、褐変した文庫本を買い求めたのである。

「タンホイザア」を読みながら気が付いたことは、昨晩の日記に書いた通りで、それは脚本の内容というよりも、音楽の構造に関する話だったのだが、「さすらひのオランダ人」の方はむしろ、この物語について再考する契機を与えてくれた。

巻末に付けられた解説で、訳者は「主役とみなすべき人物は、題名の『オランダ人』よりもむしろゼンタであることはいふまでもなく、戲曲的内容を一言にして盡すならば、この歌劇は女性の誠實な愛による救濟(エアレエズング)を象徴してゐる作品である」と述べる。これは、和訳が成された1951年当時の定説に沿った解釈であり、また現在に至るまで、最もオーソドックスな解釈とされ続けるものである。かつて私の解釈も、こうした流れから外れるものではなかった。

そして、それ故にこそ、演出家ハリー・クプファーが「メシア・コンプレックスの昂じた狂女ゼンタ」を歌劇の主題として浮かび上がらせた時には、少なからぬ衝撃と爽快を覚えたものだが、劇中で「オランダ人」とのみ呼ばれるタイトルロールの人物像については、これまでに大幅な読み替えを試みた者を、私は寡聞にして知らない。そもそも、深読みを要しない単純明快な役柄として片付けられることが、圧倒的に多い人物なのだった。

大嵐の喜望峰近海を航行中に神を呪ったために、不老不死の身に変じて、半永久的に航海を続ける運命をあてがわれた、オランダ人の船長。彼を解放できるのは「命をささげてつくす乙女」だけであり、そのような女性を探すために、7年間に1度ずつ、短い上陸を許されている……。ワーグナーの描き出したこの人物は、ひたすら悔悟と自己嫌悪の中を生き、救済の乙女をしおらしく待ち焦がれている者として、了解されてきたと言える。しかし、本当にそれだけなのだろうか。

※続く

# by nazohiko | 2006-09-14 00:28
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by nazohiko | 2006-09-14 00:28 | ☆旧ブログより論考・批評等
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