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機内でワーグナー(1)

ワーグナーの歌劇「タンホイザー」の幕開けに演奏される「ヴェーヌスベルクの音楽」は、サウンドスケープ的に音響が構成されているなあと、成田から乗ってきた飛行機の中で印象を強くした。

機中のヘッドフォンで「ヴェーヌスベルクの音楽」を聴いていたわけではない。古本屋で買い求めた岩波文庫の『さすらひのオランダ人/タンホイザア』(高木卓 訳)を、離陸直後から読み耽っているところだった。ワーグナーは歌劇(Oper)や楽劇(Musikdrama)の脚本を自ら執筆した人だが、それらの内の2本が、文芸作品として岩波文庫の赤版に収められたものである。

「さすらひのオランダ人」全3幕を読み終えて後、引き続き「タンホイザア」冒頭の長大なト書きに目を泳がせながら、私はそこで演奏されるべき「ヴェーヌスベルクの音楽」を、頭の中で辿っていた。これまでに幾度も聴き込んだ楽曲を、ト書きに触発されながら思い出してゆくのは、得意と悦楽に満ちた作業だったが、脳裡にたゆたう「ヴェーヌスベルクの音楽」が、機内を行き交う声音や物音と重なりあって知覚されたその刹那、上記の如く頓悟したのである。

ボーイング767と呼ばれる密閉空間に生み出されたサウンドスケープが、「ヴェーヌスベルクの音楽」の何処に似ているわけでもなかった。およそ飛行機の客室中に、ワーグナーの楽曲に敵うほど蠱惑的な声音や物音など存在するまい。そうではなくて、「ヴェーヌスベルクの音楽」を思い浮かべながら、機内の音に意識を向けてみる度に、揺らぎつつ持続するエンジン音から、飴玉の包紙を解くらしい物音まで、ひとつひとつが「ヴェーヌスベルクの音楽」の片々に、ぴたりと填り込んでしまうように、ひいては楽曲の一部分であるかのようにさえ感ぜられたのだった。私はそのような手順を踏んで、「ヴェーヌスベルクの音楽」と機内のサウンドスケープの間に、相同な「型」(音響の現れ方・散らばり方・縺れあい方などの)を見出した。

もっと掘り下げた説明を書き記したいのだが、あいにく私の言葉は未熟である。# by nazohiko | 2006-09-13 00:29
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by nazohiko | 2006-09-13 00:29 | ☆旧ブログより論考・批評等
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