by 謎彦 by なぞひこ
by Nazohiko


あああ!

  噫吁戲 危乎高哉

     あああ 危うきかな高きかな

  蜀道之難 難於上青天

     蜀道の難きは 青天に上るよりも難し

李白の詩「蜀道難(しょくどうなん)」の冒頭です。
かつて「蜀」と呼ばれた中国四川省の高く険しい峠道を、
アドレナリン全開で詠み上げました。

「蜀の国の峠道を登りゆくのは、天空に這い上がるよりも難しい」
という、李白お得意の誇張表現や、
「高さ」を言うのに先回りして「危うさ」をアピールするという、
形容詞の取り合わせの妙もさることながら、
この詩のすごみといえば、何といっても第一声の「噫吁戲」でしょう。

ありきたりの「嗚呼(ああ)」や「於戯(ああ)」ではなくて、
「噫吁戲」と書いて「あああ」と読むしかない、まこと異形な3文字です。

型どおりの「ああ」に1拍が足されて、「あああ」になることによって、
詩人の叫びは、たちまちダムが決壊したように溢れ出すのであり、
それは、あたかも

  ああああああああああああああああああああああああああああ!

或いは

  噫吁戲戲戲戲戲戲戲戲戲戲戲戲戲戲戲戲戲戲戲戲戲戲戲戲!

と書いてあるにも等しい、ポテンシャルを帯びるようになるのです。

私がこの詩を知ったのは、岩波刊の「中国詩人選集」に入っていた
武部利男氏の訳注・解説による李白詩集でしたが、
下巻のトップバッターが、この「蜀道難」であっただけに、
「噫吁戲(あああ)」の歎声は、おっかないほどにインパクト抜群でした。# by nazohiko | 2006-06-16 01:18
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by nazohiko | 2006-06-16 01:18 | ☆旧ブログより論考・批評等
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