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スコットランド交響曲

この時季になると聴きたくなるのが、メンデルスゾーンの交響曲第3番「スコットランド」です。実際には、5つある交響曲のうち、最後に仕上がったのだそうですが。

聴いているうちに、涼しくなること受け合い。それも「骨身に沁みる」や「背筋も凍る」といった類の冷気や悪寒ではなくて、「短い夏」と聞いて連想するような、つまり「夏」を薄く裏打ちしたような涼しさです。

スコットランドに赴いたことがないので、メンデルスゾーン自ら訪れたという現地の夏が、どんな夏なのか、どれほど短く感じられるのか、私には何とも言えません。ただ、それが「どこの夏」であるかに関わらず、この交響曲には紛れもなく「短い夏」の空気が満ちており、また「短い夏」を惜しむ人々の姿が見え隠れしていると、聴き返す度に確信するのです。特に、民俗舞曲調の第2楽章が始まるところでは。

メンデルスゾーンは、普遍的な事物として「短い夏」を音楽で表したのだとまで言えば、さすがに言い過ぎかもしれませんが。かつて私が中国の桂林を訪れた時、それまで水墨画家の幻想の産物だと思いこんでいた奇峰や怪岩が、寸分違わず実在することに驚異したことがあります。もしかすると今頃のスコットランドに行けば、メンデルスゾーンが描いたそのままの「夏」に出会えるという可能性を、「スコットランド知らずのスコットランド聴き」である私は否定できません。

さて、ドイツ人がスコットランドを描いたこの交響曲に限らず、北欧をテーマにした楽曲や、北欧の作曲家の手になる楽曲は、聴く者に涼しさを与える性質を持っていることが多いようです(スコットランドが北欧に含まれるのかという、細かい問題はさておくとして)。グリーグの「ペール・ギュント」中の一曲「朝」が、実はサハラ砂漠の朝の風景であることを、いったい幾人が「ペール・ギュント」の物語を知らないまま言い当てられるでしょうか。

ところが、同じくヨーロッパの低温地帯であっても、ロシア人の作る音楽や、ロシアを描いた音楽となると、たとえ寒々とした情景を描いていてすら、むしろ聴き手を腹の底から温めるような楽曲が揃っているように、私には見受けられて、そこが興味深いのです。つまり、北欧文化圏の作曲家とロシア文化圏の作曲家の間には、また作曲家たちの北欧イメージとロシアイメージの間には、いずれも明確な境界線がある……。

「医食同源」を謳う漢方医学では、薬物のみならず食材も「熱性・温性」グループと「涼性・寒性」グループに分け、両グループの食材を組み合わせたメニューを摂るべしと説きます。食べる時の温度や、口に入れた時の味わいで「熱・温」や「涼・寒」が決まるのではなく、消化された後で身体の「火を上げる」性質を持っているか、逆に「火を降す」性質であるかを基準にした分け方です。例えば「熱性」の食品を摂りすぎると、「火気の過剰」で表象されるような心身不調(発熱・吹出物・昂奮など)を呼び起こすのだと言われ、そしてこうした症状は、「涼性」や「寒性」の食品や薬剤を摂ることによって、治療できるという理屈になります。

この言葉遣いを借用するなら、メンデルスゾーンのスコットランド交響曲や、グリーグの「ペール・ギュント」などは、さしずめ「涼性」の食材、ムソルグスキーやリムスキー=コルサコフの作品などは、「熱性」の食材ということになるでしょう。ストレスや不安などに効くという「音楽療法」が、近年では流行していますが、漢方医学になぞらえた「音楽避暑」や「音楽懐炉」をも、各曲の効能分析を、経験的に、直感的に、しかし精緻に進めた上で、流行の列に加えてみては如何ですか。そのうち、「熱・温・涼・寒を巧みに取り合わせたプログラム作りが、東洋人の指揮者ならではの魅力だ」とか言われるようになるかもしれませんよ。# by nazohiko | 2006-06-13 07:46
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by nazohiko | 2006-06-13 07:46 | ☆旧ブログより論考・批評等
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