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トゥーランドット(6)

「トゥーランドット」の舞台となった北京(Pekino)の宮殿を、現実に存在する北京(Beijing)の紫禁城と、どこまで重ね合わせてよいのやら。「蝶々夫人」の国に住む私たちは、そういう話に免疫機能を働かせることに慣れていますが、近年の北京(Beijing)では、かつて「ブルジョワ的」だと言って禁圧された「トゥーランドット」を、映画監督の張藝謀(チャン・イーモウ)の演出により、紫禁城で上演するというイヴェントが行われました。ちなみに紫禁城を「故宮博物院」という卑俗な名前で呼ぶのは、私の好みに合いません。

その模様は、DVDにもなっていますが、紫禁城で「トゥーランドット」の公演を観るにせよ、「トゥーランドット」を聴きながら紫禁城を漫歩するにせよ、やっぱり相性が良くないなぁというのが、私の感触です。「蝶々夫人」を聴きながら長崎を巡る方が、まだ違和感が少ないように思います。長崎の多重国籍的で無国籍的な雰囲気の中でなら、「蝶々夫人」が奏でるオカシナニッポンにも、それなりに落ちつき処があるのですが、「中華文化の正統」を骨の髄まで自認するが如き紫禁城は、さすがに「トゥーランドット」を受け付けてくれません。

古蹟に遊ぶ時、私はたびたび音楽を聴きながら歩きます。こうすることによって、観光客の喧声や物音がシャットアウトされ、ひいては眼前から現代人の影がことごとく消えてしまうように感ぜられるからです。いつもひどく混雑しているらしい紫禁城を訪れた折にも、その空間から滲み出ているであろう王朝時代の荘重に浸ろうと思い、いくつかの音楽を携行していったのですが、宮殿の建築を目の当たりにして「トゥーランドット」を聴く気にはなれませんでした。

その代わり、皇帝の玉座を覗き込んだりしながら聴き惚れていたのが、坂本龍一の作曲した「ラスト・エンペラー」の映画音楽でした。これも所詮は「トゥーランドット」と同じく、西洋音楽の手法によって「外国人の想像する中国王朝」を現したものですが、しかしさすがに東洋人の作品だからなのか、或いは坂本個人の力量が優れているのか、紫禁城のいわば「木質の陰鬱」を、ズバリ言い当てるような楽曲になっています。逆に言えば、そうした陰影が、紫禁城の1つの本質であることを、坂本の音楽が教えてくれるかのようで、私は違和感ゼロと言ってよい状態のまま、イヤフォンから耳に入ってくる「管絃楽+胡弓」の節奏に乗って、殿舎のまわりを飽かずにそぞろ歩いていました。

(つづく?)

# by nazohiko | 2006-05-04 01:35
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by nazohiko | 2006-05-04 01:35 | ☆旧ブログより論考・批評等
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